はじめに#

「」という言葉を聞くと、やを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実は、幹細胞にはいくつかの種類があり、それぞれ「どこから作られるのか」「どのような細胞になれるのか」「どのような目的で研究・利用されているのか」が異なります。

代表的なものとして、iPS細胞(人工)、(胚性幹細胞)、の3つがあります。この記事では、それぞれの特徴や違いについて、できるだけわかりやすく解説します。

そもそも幹細胞とは?#

幹細胞とは、簡単にいうと、「自分と同じ性質の細胞を増やす能力」と「別の種類の細胞に変化する能力」を持った細胞です。この「別の種類の細胞に変化すること」をといいます。私たちの体には、細胞、筋肉細胞、血液細胞、皮膚の細胞など、さまざまな細胞があります。幹細胞は、こうした細胞を作り出す「もとになる細胞」と考えるとイメージしやすいでしょう。

ただし、すべての幹細胞がどんな細胞にもなれるわけではありません。どこまで分化できるかは、幹細胞の種類によって異なります。

細胞を別の細胞に変える
1体の細胞
2因子や薬剤で変換
3目的の細胞へ
概念を整理するための図です。具体的な適応、効果、リスク、費用は治療ごとの説明資料で確認してください。

幹細胞は大きく3種類#

幹細胞は、その性質や由来によって大きく分けると、次の3種類があります。

種類どこから作られる?分化できる範囲
ES細胞胚(受精後の初期胚)非常に広い
iPS細胞皮膚などの体細胞を人工的にリプログラミング非常に広い
体性幹細胞生まれた後の体の中に存在主に特定の組織・細胞

ES細胞とiPS細胞は、どちらも多能性幹細胞と呼ばれ、さまざまな種類の細胞へ分化できる能力を持っています。一方、体性幹細胞は、もともと体の中に存在し、それぞれの組織の維持や修復などに関わっています。

① ES細胞とは?#

ES細胞は、Embryonic Stem Cell(胚性幹細胞)の略です。受精後の初期胚にある細胞から作られる幹細胞で、さまざまな細胞へ分化できる「多能性」を持っています。

たとえば、神経細胞、心筋細胞、血液細胞、肝細胞など、多くの種類の細胞へ分化させることが可能です。そのため、再生医療だけでなく、病気の研究や新しい薬の開発などにも利用されています。

ES細胞のメリット

ES細胞の大きな特徴は、さまざまな細胞へ分化できる能力が高いことです。そのため、失われた細胞を作り出す「細胞の供給源」として、長年研究されてきました。

ES細胞の課題

一方で、ES細胞は胚から作製されるため、生命倫理上の問題があります。また、実際の治療に利用する場合には、移植した細胞が目的の細胞へ正確に分化するか、安全性を確保できるかなど、さまざまな課題があります。

② iPS細胞とは?#

iPS細胞は、Induced Pluripotent Stem Cell(人工多能性幹細胞)の略です。ES細胞とは異なり、皮膚などの成熟した体細胞に特定の因子を働かせることで、細胞の性質をして作製します。

簡単にイメージすると、皮膚の細胞 → 人工的に「初期化」 → iPS細胞 → 神経・心筋・血液などの細胞へ分化、という流れです。

iPS細胞は、ES細胞と同じように多能性を持つことが大きな特徴です。

iPS細胞のメリット

iPS細胞の大きな特徴は、患者本人の細胞から作製できる可能性があることです。そのため、将来的には患者自身の細胞を利用した再生医療や、病気を再現する「病気のモデル」、新薬の研究などへの応用が期待されています。また、ES細胞のように胚を使用することに伴う倫理的な問題を回避できる点も重要です。

iPS細胞の課題

一方、iPS細胞にも課題があります。作製したiPS細胞を目的の細胞へ正確に分化させる技術や、移植した細胞の安全性を確保することなどが研究課題となっています。つまり、「iPS細胞なら何でも治せる」わけではありません。実際の治療では、対象となる病気ごとに有効性と安全性を確認する必要があります。

③ 体性幹細胞とは?#

体性幹細胞は、私たちの体の中に元々存在している幹細胞です。「成体幹細胞」や「組織幹細胞」と呼ばれることもあります。

体性幹細胞は、ES細胞やiPS細胞のように体のあらゆる細胞になれるわけではありません。基本的には、それぞれの組織に応じた限られた種類の細胞へ分化する能力を持っています。代表的なものとして、、、間葉系幹細胞などがあります。

造血幹細胞

造血幹細胞は、主になどに存在し、赤血球、、などの血液細胞を作り出します。血液を作り続けるために重要な役割を担っています。

神経幹細胞

神経幹細胞は、神経細胞やグリア細胞など、神経系の細胞へ分化する能力を持つ幹細胞です。

間葉系幹細胞

は、骨髄や脂肪組織などに存在する幹細胞です。骨・・脂肪などの細胞へ分化する能力が知られています。また、間葉系幹細胞はさまざまな生理活性物質を分泌することが知られており、再生医療の分野でも研究が進められています。

iPS細胞・ES細胞・体性幹細胞の違い#

3種類の違いを簡単に整理すると、次のようになります。

ES細胞 「初期胚から作る、多能性を持った幹細胞」

iPS細胞 「大人の体の細胞などを人工的に初期化して作る、多能性を持った幹細胞」

体性幹細胞 「もともと体の中に存在し、組織の維持や修復などに関わる幹細胞」

「多能性」と「分化」を理解すると違いがわかりやすい#

幹細胞を理解するうえで重要なのが、「多能性」と「分化」という言葉です。

多能性とは?

多能性とは、さまざまな種類の細胞へ分化できる能力のことです。ES細胞やiPS細胞は、多能性を持つ代表的な幹細胞です。

分化とは?

分化とは、細胞が特定の役割を持った細胞へ変化していくことです。たとえば、iPS細胞から心筋細胞のように、目的の細胞へ変化させることを「分化」といいます。一方、体性幹細胞は、分化できる範囲が比較的限られています。

3種類の幹細胞をイメージで比較すると#

幹細胞を「進路を選べる学生」にたとえると、イメージしやすいかもしれません。

ES細胞・iPS細胞 → 多くの進路から選べる

体性幹細胞 → 進める分野がある程度決まっている

つまり、ES細胞・iPS細胞=幅広い細胞になれる、体性幹細胞=特定の組織に関連した細胞になれるという違いがあります。

幹細胞なら何でも再生医療に使える?#

ここは非常に重要なポイントです。「幹細胞であること」と「治療効果が証明されていること」は別の問題です。幹細胞にはさまざまな種類があり、それぞれ性質が異なります。

さらに、同じ種類の幹細胞でも、どこから採取するのか、どのようにするのか、どのような方法で投与するのか、どの病気に使用するのかによって、期待される効果や安全性は異なります。そのため、「幹細胞だから病気を治せる」と単純に考えるのではなく、その治療についてやなどでどこまで有効性・安全性が確認されているのかを確認することが重要です。

日本では、再生医療等を実施する場合、安全性を確保するための法律に基づいた手続きや審査が行われています。

まとめ#

幹細胞にはさまざまな種類がありますが、代表的なのがES細胞、iPS細胞、体性幹細胞です。

ES細胞 → 初期胚から作られる → 多能性を持つ

iPS細胞 → 体の細胞を人工的に初期化して作る → ES細胞と同様に多能性を持つ

体性幹細胞 → もともと体の中に存在する → 特定の組織や細胞へ分化する

それぞれに特徴やメリット、課題があり、再生医療だけでなく、病気の研究や新薬の開発など、さまざまな分野で研究が進められています。

「幹細胞」という言葉だけで判断するのではなく、どの種類の幹細胞を使うのか、どのような仕組みで効果が期待されているのか、そして実際にどこまで科学的に確認されているのかを知ることが、再生医療を理解するうえで重要です。

もう一歩深めるには#

幹細胞の基礎が分かると、次に気になるのは「その細胞が治療として使われているのか、まだ研究段階なのか」です。同じ「幹細胞」という言葉でも、保険されたものと研究対象のものでは意味が違います。

記事を読み進める際は、カテゴリの「効果と」「安全性とリスク」にも目を通すと、情報の読み方に差が出ます。用語集で分からない言葉を引きながら進めるのもおすすめです。

よくある質問#

Q. このテーマはどこまで確かめられている?

A. 基礎概念は確立していますが、治療への応用は部位や病気で研究段階が異なります。「概念」と「使える治療」は分けて考えてください。

Q. 次に読むべき記事は?

A. カテゴリ内の「効果とエビデンス」「安全性とリスク」に進むと、基礎知識が治療の判断材料に変わります。